“ファンサブ”の合法化:ファンによる字幕付違法アニメを合法化する試み。

アニメの製作側は確かにfansubを敵視していたけど、元々fansubってのは膨大なタイトルの中から扱うタイトルを選ばなければいけない海外の配給会社にとってはマーケットリサーチの一つの指標だったから、自前で字幕を作るという手間を省くというこのやり方自体は別に驚くべき事ではないと思う。

ただ、個人的には従来のfansubと今のdidisubは別物だと思っている。digisub以前の昔のfansub界には色々と暗黙のルールがあって、fansubを作るのはアメリカでは発売されていない作品だけであり、アメリカの会社からのライセンス発売が決まればfansubの配布をやめるといった共通理解があった。fansubberがアメリカではあまり知らていなかった作品に字幕を付けて配布して、それが人気を博しているのを見た配給会社が正式にライセンスを取って販売するということもよくあり、fansubberと配給会社は相互補完関係にあったといえる。音楽におけるファン同士のブート交換と一緒で、アニメが好きなファンが他のファンのためにやっていることで、違法であっても誰の利益を侵害しているわけではないという一種の誇りみたいなのがあった。

しかし、PCと高速回線の普及でこの世界が一気に崩壊する。PCで字幕を付ける作業が簡単にできるようになり、誰でも手軽にfansubを作れるようになったことが大きい。また、配布方法もVHSテープから、ネットを使ったデジタルデータでの配布に変わっていった。その結果、Sub Station Alphaなどのツールを使って字幕を作り、DivXなどでエンコードした動画にSubtitlerなどで字幕を合成し、FTPIRCで配布するという方法が一般化した。そして、fansub作成用ツールの向上も進み、ますます誰でも手軽にfansubberになれるようになった。その結果、次々と新手のfansubグループが現れて、字幕の出来や作品の質よりもリリースの早さを競うようになってきた。その中には日本語の知識がほとんどない者も多く、極めて質の悪いfansubが出回るようになった。また、本来は海外で発売されていない作品を紹介する目的でやっていたのに、海外で発売されているものにまで字幕をつけるヤツが出てきて、fansubの理念は完全に失われてしまった。

こういう現状ではfansubを認めてネットで配信するといっても成功しないと思う。このサービスが始まっても当然配信は有料になるだろうし、日本で放送された翌日には配信ってことは不可能だろうから、そこで配信されているタイトルと同じタイトルに素人が字幕を付けた違法fansubが出回るだけだと思う。だって、リリースの速さと入手の手軽さでは違法fansubに勝るものはないから。それ以前に、日本の製作会社が字幕クオリティがピンからキリまであるfansubをオフィシャル版として認めるかどうかも怪しい気がする。悲観的な見方かもしれないけど、俺はdigisubになった時点で全ては終わったと思っている。今のfansubはもはや“fanのsub”ではなくてただの“海賊版”に過ぎない。それを合法化したところで何も変わらないと思う。

(上の文章は実は4年ほど前に某所で書いたコラムの焼き直しというのはここだけの秘密)

参考リンク:
http://www.fansubs.net/fsw/general/index.html
http://www.faireal.net/articles/6/16/
http://moonlight.big-site.net/misc/fansub.html
http://moonlight.big-site.net/misc/fansub_death.html